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「半分泣き」の慣例は本当に存在するのか?


以前のエントリーでは造幣局の職員が金塊を盗みだし、さいたま市内の質屋に売却したニュースについて紹介した。今のところ該当職員の処分については発表されていないが、いずれにせよ懲戒免職処分になるのはほぼ間違いないだろう。

ところで、この記事につき筆者はもう一点だけ疑問に思ったことがある。それは盗まれた金塊は果たして造幣局に戻ってくるのだろうか、という点だ。今回は、この点につき調べた結果をレポートする。


盗品・遺失物の回復請求

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まず民法193条には、盗品・遺失物の回復請求についての規定がある。
外部サイトへのリンク: 民法(※法令データ提供システム)

民法第百九十三条:
前条の場合において、占有物が盗品又は遺失物であるときは、被害者又は遺失者は、盗難又は遺失の時から二年間、占有者に対してその物の回復を請求することができる。

また盗品の換金を難しくして窃盗を防ぐ目的で、盗品の質受には質屋営業法22条でも規制がなされている。
外部サイトへのリンク: 質屋営業法(※法令データ提供システム)

質屋営業法 第二十二条:  
質屋が質物又は流質物として所持する物品が、盗品又は遺失物であつた場合においては、その質屋が当該物品を同種の物を取り扱う営業者から善意で質に取つた場合においても、被害者又は遺失主は、質屋に対し、これを無償で回復することを求めることができる。但し、盗難又は遺失のときから一年を経過した後においては、この限りでない。

本稿の事件では犯人の供述からみて質屋は金塊を質受したわけではなく単に買い取っただけのようではあるが、古物の買取についても古物営業法20条で同じような規制が設けられている。
外部サイトへのリンク: 古物営業法(※法令データ提供システム)

古物営業法 第二十条:  
古物商が買い受け、又は交換した古物(商法 (明治三十二年法律第四十八号)第五百十九条 に規定する有価証券であるものを除く。)のうちに盗品又は遺失物があつた場合においては、その古物商が当該盗品又は遺失物を公の市場において又は同種の物を取り扱う営業者から善意で譲り受けた場合においても、被害者又は遺失主は、古物商に対し、これを無償で回復することを求めることができる。ただし、盗難又は遺失の時から一年を経過した後においては、この限りでない。

これらの規定は要するに「盗品が売却されたり、質入されたりしてしまった場合でも、被害者は一定期間が経過するまではその物を無償で取り戻すことができる」旨の規定である。つまり金塊が持ち出されたのが今年の1月である以上、まだ造幣局は金塊を無償で質屋から取り戻すことができるように思える。

「半分泣き」の慣例とは?

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このように法律上は、被害者は「質屋・古物商」から無償で盗品の引渡を受けることができるということになっている。しかし、実務では警察が間に入って半額づつ払って和解することを勧める慣例があるという話もある。これはどうやら「損害の全額を質屋・古物商に負わせると、これらの店舗が将来的に犯罪捜査に非協力的になる恐れがあるため」ということらしい。
※外部記事へのリンク: 質屋にあった盗品、買い戻さなければならない?(※困り事よろず相談処「ほ~納得」の記事)

果たして、このような慣例は本当に存在するのだろうか?

確認とのため筆者は、メールフォームを通じて埼玉県警の「けいさつ総合相談センター」に質問を送ってみた。
しばらくして担当者の方から電話でご返答をいただいたが、その内容はおおむね以下のようなものだった。
※質問を送ったのは2016年8月12日。回答を頂いたのは同8月19日。

被害額は本来犯人が弁済すべきであり、それがなされない場合に損害をどちらが負担するかは当事者の問題である。警察は質屋と被害者のあいだで連絡のための橋渡しをすることはあるけれども、当事者間の民事的な問題には介入しない

つまり、警察としてはそのような指導は行っていないということらしい。

たしかに盗品等の引渡し義務を定めているのは「民法」の193条であり、質屋営業法・古物営業法の引渡義務も同条の規定を根拠とするものであるから、法的なカテゴリーとしては民事的な問題なのだろう。つまり、警察が半分づつ負担せよと指導することは、少なくとも建前としてはないということのようだ。

もちろん今回のケースでは盗まれた側の造幣局の管理にも明らかに過失がある。盗難が早期に発覚し、金塊が盗みだされた旨の報道がなされていれば、おそらく質屋の側もこのような品は買い取らなかったであろう。そのため造幣局が質屋に返還を要求したとしても質屋としてはその物の返還を拒むかもしれない。

最後に

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今回、埼玉県警に質問を送ったのは、同県警が筆者の居住地の警察であることもあるが、冒頭に紹介した金塊窃盗事件について管轄している警察署であるからでもある。その埼玉県警に「警察としてその種の指導をすることはない」と明言されてしまった以上は、いわゆる半分泣きの慣例は存在しないことを以って本稿の結論とするよりないだろう。

なお、個人的なブログを書くためだけの質問であるにもかかわらず、埼玉県警・捜査3課の担当者の方には懇切かつ丁寧に答えていただいた。末文ながらお礼申しあげたい。
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