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金塊を盗んだ造幣局職員は、なぜ懲戒免職になっていないのか

今年(2016年)の1月5日、造幣局の東京支局にある博物館から時価6380万円ほどの金塊が盗みだされた。この金塊は重さにして15キロあまりもある代物だったらしい。

この部分だけ聞くと、小説のアルセーヌ・ルパンか何かのような怪盗が厳重なセキュリティをかいくぐって金塊を盗みだしていったようにも思える。しかし、実際のところはまったく違う。

どうやら外国為替証拠金取引(いわゆるFX取引)で大損をした博物館職員が、その損失を補填するために金塊を持ち出して、さいたま市内の質屋に売り払っていた(※)らしい。もはやセキュリティを云々する以前の問題である。
※2017年6月20日のNEWS24で、本人が「質屋に売った」と供述している旨のニュースが報道されていた。
したがって質入ではなく売却であろう。


本稿はかかる不祥事を起した職員に対する処分について造幣局に取材した内容をまとめたものである。

目次

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 ・ニュースソースの紹介
 ・そもそも金塊は買い取ってもらえたのか
 ・なぜ職員の処罰が記事になっていないのか
 ・博物館で直接質問してみた
 ・実は免職されていなかった
 ・なぜ職員は懲戒免職になっていないのか
 ・刑事訴訟の係属中であるから免職できないのか?
 ・最後に

ニュースソースの紹介

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まず、参考のためにニュースソースを示す。
この金塊が盗み出された経緯は概ね以下のようなものらしい。
(以下、日本経済新聞の記事を引用)

6380万円相当の金塊盗む 容疑の造幣局職員逮捕
2016/6/20 20:59
独立行政法人造幣局が管理していた約6380万円相当の金塊を盗んだとして、埼玉県警は20日までに、同局東京支局総務課専門官、梅野穣容疑者(54)=さいたま市西区内野本郷=を窃盗の疑いで逮捕した。

県警によると「外国為替証拠金取引の損失を穴埋めするためにやった」と容疑を認めている。金塊の大きさは縦20センチ、横10センチ、高さ6センチほどで重さ約15キロ。さいたま市内の質店で発見された。

逮捕容疑は、1月5日午後4時半ごろ、東京都豊島区の造幣東京博物館に展示されていた金塊を盗んだ疑い。梅野容疑者は広報業務を担当しており、仕事で貸し出すとの名目で部下に展示ケースから出すよう指示したとみられる。持ち出しに必要だった総務課長の許可は得ていなかった。

ケース内にはその後、実物がない際に展示する模造品が置かれていたが、総務課長らが今月17日、本物を梅野容疑者が持ち出した疑いがあるとして、県警大宮西署に相談した。

造幣局によると、梅野容疑者は今月15日から欠勤していたという。同局は20日、「このような不祥事が発生したことは痛恨の極みであり、深くおわび申し上げる。再発防止に万全を尽くす」とのコメントを発表した。〔共同〕

そもそも金塊は買い取ってもらえたのか

INDEX
この記事を読んで「そもそも金塊とは質屋で買い取ってもらえるものだろうか」と疑問に思われたかたもいるだろう。実際に筆者自身も、アクセサリーならばともかく、地金をそのまま買い取ってもらえるのだろうかとの疑念を抱いた。しかし、グーグルで普通に検索しただけでも質屋マルカ東京質屋さのやカドノ質店といった店舗では普通にインゴット(金の延べ棒)を買い取っている。

もちろん1キロや2キロならばともかく、15kgの延べ棒ともなるとさすがに購入側も疑問に思うべきだったようにも思える。そもそも金塊には一般的な融解業者・分析業者の刻印ではなく、造幣局の刻印が押されていたはずであった。
外部サイトへのリンク: 東京工業品取引所指定ブランド一覧(※インゴットの刻印類のリスト)

しかし、少なくとも犯人は金塊を実際に買い取ってもらっている。とすれば、やはり売却に特段の問題はなかったのだろう。もちろん民法193条の回復請求(※1)を受ける可能性などを考えると、このような物品を買い取るのはリスクが高い行為にも思える。ただ15キロもの金塊が盗難に遭えば普通はニュースになる(※2)だろう。だから、そのような報道がなされていなかったために盗品ではないと判断してしまったのかもしれない。
※1 もともとの所有者は2年のあいだ盗まれたものを返還するよう請求できるとする制度。
※2 現に8月には大阪で2800万円相当の金塊が入った鞄がひったくられた事件があり、NHKなどで全国的に報道された。

なぜ職員の処罰が記事になっていないのか

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ところで上記のニュースソースを読んだ筆者はもう一つの疑問を覚えた。この職員に対する造幣局側の処分について何も書かれていないのである。こういった不祥事の記事では「職員は懲戒免職になった」とか、「既に依願退職した」などの処分が書かれているのが普通である。

もちろん会社の金を勝手に持ちだしたりすれば一般企業でも当然懲戒免職である。まして犯人は他ならぬ造幣局の職員である。あらゆる日本の役所のなかで最も金銭絡みの不正に厳しくなくてはならない組織の一つであるはずである。

そのうえ盗んだ金塊は6380万円分である。江戸時代には10両盗んだら死刑になると他ならぬ造幣局のホームページ自身が解説してくれている。当時の10両は多くとも現在の貨幣価値で50万円程度である。6000万円を超える価値を持つ金塊を盗んだこの職員は、世が世なら余裕で打ち首獄門であろう。
※ちなみに金の含有量の多い慶長小判でさえ1枚に含まれる金は15g程度。
 金保有量で計算しても1000両は下らない大金になる。


だから記事に書いていないだけで、この職員は当然懲戒免職になっているのだろう。少なくとも、筆者はそう考えていた。


盗まれた金塊とほぼ同じ重さの金塊(左)

折りしも造幣局の東京支局は今年10月をもって移転することになっており、その関係で池袋の博物館は6月末を以っていったん閉鎖されることになっていた。しかもその移転先は他ならぬさいたま市であるという。筆者にとってはまさにホーム・グラウンドというべき場所である。
リンク: 造幣局さいたま支局10月開局へ(※埼玉新聞記事)

そこで、造幣局東京支局博物館の閉鎖直前に筆者は同博物館の取材に行ってみた。実際には東京支局博物館がさいたま市に移転する旨の記事前回投稿の記事)を書くのが主な目的だったが、金塊を盗んだ職員の処分についても、ついでにその場で質問してみるつもりであった。

博物館で直接質問してみた

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筆者が東京支局の博物館を訪れたのは6月28日の午後2時頃だった。
そのとき受付をしていた女性職員からは、すでにその職員は懲戒免職になった旨の解答があった。
むろんこのとき筆者に疑う理由はない。

実は免職されていなかった

INDEX
ところが後に筆者は、実はこの女性職員が嘘をついていたのだと知る事になる。

2017年7月8日に造幣局が公開したPDFファイルを読んで、筆者は驚いた。該当の文書には、金塊を盗んだ職員は起訴休職処分になったとするのみであり、どこにも懲戒免職になったとは書かれていないのだ。
リンク: 独立行政法人造幣局東京支局職員の窃盗罪による起訴について

起訴休職というのは国家公務員法79条2号に定められた処分であり、職員に対する刑事訴訟が係属しているあいだ、その職員を一時的に公務から排除し休職させる制度である。
リンク: 国家公務員法(法令データ提供システム)

国家公務員法 第七十九条: 
職員が左の各号の一に該当する場合又は人事院規則で定めるその他の場合においては、その意に反してこれを休職することができる。
一  心身の故障のため、長期の休養を要する場合
二  刑事事件に関し起訴された場合

これはいったいどういうことなのか。筆者はメールフォームを通じて再度造幣局に質問してみた。
質問の内容はおおむね以下の2点(※)である。
※一応、その他の事項についても多少の質問を行ってはいる。

1. 金塊を盗んだ職員はなぜ懲戒免職になっていないのか
 2. 該当の女性職員は、なぜ虚偽の説明をしたのか
※画像: 2016年7月8日に送った質問の内容

しかしながら造幣局からの回答は下のリンクの画像の示すようなものであった。言葉遣いこそ丁重だが、なぜ金塊を盗んだ職員が懲戒免職になっていないのか、なぜ該当の女性職員が虚偽の説明をしたのかについては、まったく何も答えていないものだ。
※画像:2016年7月13日に造幣局から受信した回答の内容

もちろん筆者の側もそれほど実のある回答を期待してメールを送ったわけではない。造幣局から戻ってくる返答は「前後の事実関係が分からないのでお答えしかねます」程度の無難なものであろうとは思っていた。しかし返ってきたのは「分かりかねます」の一言すらない完全無視だった。

もちろん、正式には懲戒免職になっていなくても、造幣局内部では既に懲戒免職が確定したものとして扱われているということもあるかも知れない。だから件の女性職員も「すでに免職された」と説明してしまい、それが結果的に嘘になってしまったのかも知れない。そういった擁護も一応は可能である。

なぜ職員は懲戒免職になっていないのか

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造幣局は独立行政法人ではあるが、以下の2つの規定により、その職員は国家公務員とされている。
リンク: 造幣局法 独立行政法人通則法(法令データ提供システム)

造幣局法 第四条:
造幣局は、通則法第二条第四項 に規定する行政執行法人とする。

独立行政法人通則法 第五十一条: 
行政執行法人の役員及び職員は、国家公務員とする。

そのため造幣局職員もまた国家公務員法75条1項の身分保障の対象となっている。

国家公務員法 第七十五条一項:
職員は、法律又は人事院規則に定める事由による場合でなければ、その意に反して、降任され、休職され、又は免職されることはない。

しかし、同法82条が「職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合」や「国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合」に懲戒処分を行えると規定しているから、この職員に懲戒処分を行うことは当然可能であろう。

国家公務員法 第八十二条 :
職員が、次の各号のいずれかに該当する場合においては、(中略)、免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる。
一  この法律若しくは国家公務員倫理法 又はこれらの法律に基づく命令(中略)に違反した場合
二  職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合
三  国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合

そもそも人事院自体が「公金又は官物を窃取した職員は、免職とする」との指針を明確に示している。
リンク:懲戒処分の指針(人事院)

刑事訴訟の係属中であるから免職できないのか?

INDEX
では、刑事訴訟の係属中であるから懲戒処分を行えないのだろうか? 
実はこの点についても国家公務員法85条に規定が設けられている。

国家公務員法 第八十五条:
懲戒に付せらるべき事件が、刑事裁判所に係属する間においても、人事院又は人事院の承認を経て任命権者は、同一事件について、適宜に、懲戒手続を進めることができる。この法律による懲戒処分は、当該職員が、同一又は関連の事件に関し、重ねて刑事上の訴追を受けることを妨げない。

それにしても「人事院又は人事院の承認を経て任命権者」というのは非常に理解しにくい日本語である。これは要するに「人事院の承認を事前に得た任命権者も、人事院と同じように懲戒手続ができる」という意味だ。より具体的にいえば、人事院の下部組織である国家公務員倫理審査会の承認を得れば、造幣局はこの職員に懲戒処分を行えるのである。
リンク:国家公務員倫理審査会

この点についても筆者は造幣局に質問を行ってみた。
内容を要約すると国家公務員倫理審査会に懲戒の許可を求めているかを問うものである。
※画像: 2016年7月24日に送った質問の内容

これに対する造幣局からの回答は以下の画像に示すようなものであった。
文面こそ慇懃だが、やはり実質的には全く無意味な回答である。
※画像: 2016年7月28日に造幣局から受信した回答の内容

人事院の懲戒処分の公表指針についても言及されているが、この指針は「既に行われた懲戒処分をどのように公表すべきか」を定める類のものであり、なぜ懲戒処分が依然として行われていないのかという疑問に答えるものでは全くない。
リンク:懲戒処分の公表指針(人事院)

最後に

INDEX
いずれにせよ問題の職員は「いまのところ処分が未定」なだけであり、いずれ懲戒免職になることはほぼ間違いないと思われる。盗みだした金額の大きさからいっても、造幣局職員という職務の性質からいっても、とても依願退職で済まされるような事例とは思えない。

しかしながら、「どうせきちんと処分されるだろう」と考えて国民が全く批判の目を向けなければ、綱紀が緩みさらなる汚職を招く可能性もある。そもそも職員が金塊が盗み出す時点で綱紀は緩んでいるはずだ。盗まれた後5ヵ月以上も通報が行われなかった点をみても、やはり職員の順法意識の低下が疑われるべきであろう。

ゆえに、こうした不祥事に対してはきちんと監視の目を光らせていくことが必要だと、筆者は考えるのである。
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