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9人全員3割バッターだと何点取れる? (※ただし単打に限る)


野球において3割の打率でヒットを打てるバッターは一般に強打者とされる。しかし安打をコンスタントに打てても長打力がない打者はあまり戦力にならないともいわれる。

こうした「長打力のない三割打者」は、果たしてどの程度チームに貢献しているのだろうか?


これはなかなか難しい問題である。
そこで問題を思い切り単純化して考えてみる。

以下の条件で1試合9イニングを戦ったとき、このチームは平均で何点をとることができるだろうか?

 ・ 全打者がそれぞれ3割の確率でシングルヒットのみを打つ
 ・ それ以外の場合は全て三振、四死球も発生しない
 ・ 盗塁はしない
 ・ ヒットが出たとき1塁ランナーは2塁に行き、2塁ランナーは本塁に帰る


以下から正答を選んでみてほしい。

 1. 約2点
 2. 約2.5点
 3. 約3点
 4. 約3.5点
 5. 約4点



ちなみに正解はだ。

全打者が3割の確率でシングルヒットのみを打った場合、1試合に取れる得点の期待値はおよそ2.52点となる。プロ野球における各チームの平均得点がおおむね3.2点以上(※)であるということを考えると、これはかなり低い数値だ。長打も四死球もなく、また盗塁もないという条件のもとでは、全打者が3割打者であってもそれほど得点は取れないということだろう。
Base Ball Lab2015年度のデータを参照。

では、この2.52点という数値はどのような計算で求められたのか?
本稿では、この期待値を求めた確率計算の方法について解説する。
長い記事になるので目次を置いておこう。

目次

▲PAGE TOP
 ・どのように期待値を求めるのか
 ・イニングにヒットが出ない確率を求める
 ・イニングに1本だけヒットが出る確率を求める
 ・イニングに2本だけヒットが出る確率を求める
 ・イニングに3本だけヒットが出る確率を求める
 ・一般化する
 ・表計算ソフトで計算する
 ・任意の打率について期待値を求める
 ・コンピューター・シミュレーションにより検証する
 ・最後に

どのように期待値を求めるのか

▲INDEX
1試合(9イニング)でとれる得点の期待値は、もちろん1イニングの得点期待値の9倍だ。

そしてその1イニングの得点期待値は、

そのイニングで3本ヒットがでる確率 × 1
そのイニングで4本ヒットがでる確率 × 2
そのイニングで5本ヒットがでる確率 × 3

そのイニングでn本ヒットがでる確率 × n-2

の値をn→∞(ただしn>2)について求め、それを全て足したものである。

もっともn→∞とはいってもnがあまりに大きい場合のことは考えなくてもよい。nの値がある一定以上に大きくなると「n本ヒットが出る確率」は極小値になり、期待値にほとんど影響を及ぼさなくなる。プロ野球における1イニングの安打記録は13本(※)だ。常識的に考えて1イニングに1000本も、10000本もヒットが出るわけがない。
※1992年7月15日の試合で西武ライオンズが5回裏に記録。対戦相手は福岡ダイエーホークス。

つまり常識的な範囲のnについての計算結果を合計すれば、それでほぼ正確な期待値を求めうる。

イニングにヒットが出ない確率を求める

▲INDEX
実際にイニングにn本ヒットが出る確率について、n=0から順に求めてみよう。

まず三者凡退になる確率だ。
もちろんヒットが2本以下の場合は期待値に寄与しないが、解説のため一応計算する。

ヒットが出ない確率は0.7 × 0.7 × 0.7 = 0.343により、34.3%である。


イニングに1本だけヒットが出る確率を求める

▲INDEX
まずそのイニングの攻撃が「ヒット-アウト-アウト-アウト」のパターンになる確率を求めてみる。

ヒットになる確率は0.3 (30%)。
アウトになる確率は1 - 0.3で、0.7(70%)。

だからこれは0.3 × 0.7 × 0.7 × 0.7 = 0.1029 (10.29%)となる。

1イニングに1本だけヒットがでるパターンには他にも、

・ アウト-ヒット-アウト-アウト
・ アウト-アウト-ヒット-アウト

の2パターンがあり、そうなる確率もそれぞれ10.29%だ。

結局、「イニングに1本だけヒットが出るパターン」は全部で3パターンある。
後述するがこの3パターンという数は\( {}_3 \mathrm{ C }_1 \)という計算をすることでも求められる。
これは「必ずアウトになる最後の打席」(※)を除いた3打席のうち1打席がヒットになる組み合わせを求める計算である。
※最後がアウトでなければイニングが終わらない。

この3パターンのそれぞれが10.29%の確率で生じるので、イニングに1本だけヒットが出る確率は合計で30.87%になる。


イニングに2本だけヒットが出る確率を求める

▲INDEX
イニングに2本だけヒットが出るパターンは以下の6通りである。

 ・ヒット-ヒット-アウト-アウト-アウト
・ ヒット-アウト-ヒット-アウト-アウト
・ ヒット-アウト-アウト-ヒット-アウト
・ アウト-ヒット-ヒット-アウト-アウト
・ アウト-ヒット-アウト-ヒット-アウト
・ アウト-アウト-ヒット-ヒット-アウト

このうちの1パターンになる確率は「0.3の2乗×0.7の3乗」という計算で求められる。(約3.1%
全部で6パターンあるので、「イニングに2本だけヒットが出る確率」は、その6倍で約18.5%となる。

この6パターンというパターン数は組合せの公式を使うことでも求めうる。
必ずアウトになる最後の打席を除いた「4打席のうち2打席がヒットになる組合せの数」は、\( {}_4 \mathrm{ C }_2 \)と表せる。
公式についての詳しい解説は外のサイト(※)に委ねるが、この\( {}_4 \mathrm{ C }_2 \)は\( \displaystyle \frac{ 4 \times 3 }{ 2 \times 1 } \)という計算で求めうる。
東大生が教えるビジュアル数学が詳しい解説を行っている。


イニングに3本だけヒットが出る確率を求める

▲INDEX
同様に「組み合わせの公式」を使えば、イニングに3本だけヒットが出るパターンの数も簡単に求められる。
最後の打席を除く5打席のうち、3打席がヒットになるパターンの数だから、これは\( {}_5 \mathrm{ C }_3 \)である。

\( {}_5 \mathrm{ C }_3 \ = \displaystyle \frac{ 5 \times 4 \times 3 }{ 3 \times 2 \times 1 } = 10 \)

つまり、イニングにちょうど3本ヒットが出るパターンの数は全部で10通りである。
そのうち1パターンになる確率は「0.7の3乗×0.3の3乗」という計算で求められる。(約0.9%
全部で10パターンあるから、「イニングに3本だけヒットが出る確率」は10倍して約9.2%となる。


一般化する

▲INDEX
ここまでの計算を一般化すると、イニングにn本だけヒットが出るパターンの数は「n+2打席のうち、n打席がヒットになるパターンの数」だということが分かる。

このパターン数は\( {}_{n+2} \mathrm{ C }_n \)を計算することで求めうる。

ところで、組み合わせの基本公式の一つに\( {}_n \mathrm{ C }_r = {}_n \mathrm{ C }_{n-r} \)の公式(※)といわれるものがある。
※この法則についても東大生が教えるビジュアル数学の解説が詳しい。

たとえば「6打席のうち4打席がヒットになる確率」「6打席のうち2打席がアウトになる確率」が等しいのは自明のことだ。このような場合には\( {}_6 \mathrm{ C }_4 = {
}_6 \mathrm{ C }_{6-4} = {}_6 \mathrm{ C }_2 (=15) \)が成立する。\( {}_n \mathrm{ C }_r = {}_n \mathrm{ C }_{n-r} \)の法則はこのようなケースを一般化したものだ。

この公式を適用すると\( {}_{n+2} \mathrm{ C }_n = {}_{n+2} \mathrm{ C }_{n+2-n} = {}_{n+2} \mathrm{ C }_2 \)が成立するので、計算が容易になる。

結局、イニングにn本ヒットが出る場合のパターン数は、

\( {}_{n+2} \mathrm{ C }_2 = \displaystyle \frac{(n+2) \times (n+1)}{2 \times 1} \)

ということになる。

このパターンのうち1つが出現する確率は「0.3のn乗×0.7の3乗」で求められる。
だからイニングにn本だけヒットが出る確率は、両者の積である一般式

\( \ f(n) = (0.3)^n \times (0.7)^3 \times \displaystyle \frac{(n+2) \times (n+1)}{ 2 }\)

で求められる。

表計算ソフトで計算する

▲INDEX
一般式が導かれたので「イニングにn本だけヒットが出る確率」は表計算ソフトを使えば簡単に求められる。期待値は確率にn-2(ただしn>2)を乗算すれば得られるだろう。



上記のようにn=30まで求め、その期待値を合算した結果は約0.28である。
打率が3割しかない場合にはnが31以上になる確率は極小であるので無視して構わない。

この0.28という数値は1イニングにとれる得点の期待値なので、1試合の期待値は9倍になる。

したがって冒頭に述べたように、全打者が3割の確率でシングルヒットのみを打った場合、1試合に取れる得点の期待値は、およそ2.52点ということになる。

任意の打率について期待値を求める

▲INDEX
前項までの計算を他の打率についても応用してみよう。
たとえば全てのバッターが2割の確率で単打のみを打つとき、1試合にとれる得点の期待値は何点だろうか?

全てのバッターが「3割」の確率で打つ場合には、「イニングにn本だけヒットが出る確率」
\( \ f(n) = (0.3)^n \times (0.7)^3 \times \displaystyle \frac{(n+2) \times (n+1)}{ 2 }\)
で求められた。

このうち0.3というのはヒットになる確率で、0.7というのはアウトになる確率だったのだから、打率が2割の場合はこの数字を0.2、0.8に置き換えればよい。あとは同様に表計算ソフトで計算すれば、この場合の得点期待値は1イニングあたり0.08点、1試合あたり0.73点となることがわかる。


・使用したエクセルファイルのダウンロード

同様に他の数値で計算した結果もあげておく。

全打者がnの確率でシングルヒットのみを打つとき、得られる得点の期待値
打率期待値(イニング)期待値(試合)
0.10.010.09
0.150.030.31
0.20.080.73
0.250.161.44
0.30.282.52
0.3330.393.49
0.350.454.08
0.40.696.22


コンピューター・シミュレーションにより検証する

▲INDEX
ところでメルセンヌ・ツイスタ(Mersenne Twister)という乱数生成方法をご存じだろうか? これは周期が2^19937-1と極めて長く、出力が623次元という高次元に均等分布する優れた乱数生成方法である。 そしてこの乱数生成方法は、商用利用を含めて自由な使用が許諾されている。
リンク: SFMT - 2007年に公開されたメルセンヌ・ツイスタの高速改良版

要するに、この方法は均一な乱数を高速に作り出せるため広く使われているということだ。

そこで、このメルセンヌ・ツイスタのライブラリを使用して、javaで簡単なシミュレーションを行ってみた。
コードの内容は以下のようなものである。

・ 各打者は3割の確率でシングル・ヒットのみを打ち、7割の確率で三振する。
・ ヒットが出たとき1塁ランナーは2塁に行き、2塁ランナーは本塁に帰る。
・ 3回アウトになるとイニングが終了し、9イニングで攻撃が終了する。


これを既定の回数だけ繰り返してもらい、各試合の平均得点を求めて結果を出力する。
コードは下記の通り。リンク: 使用したSFMTライブラリの配布ページ

打率が3割の場合の計測値は以下の通り。
試行回数が多くなればなるほど、得点が理論値である2.52に近づいているのがわかる。

1試合終了時点での平均得点 : 4.0点
10試合終了時点での平均得点 : 1.7点
100試合終了時点での平均得点 : 2.13点
1000試合終了時点での平均得点 : 2.512点
10000試合終了時点での平均得点 : 2.539点
100000試合終了時点での平均得点 : 2.52804点
1000000試合終了時点での平均得点 : 2.525082点


打率が2割の場合の計測値は以下の通り。
やはり試行回数の増加によって理論値(0.73)に近づいている。

1試合終了時点での平均得点 : 0.0点
10試合終了時点での平均得点 : 0.7点
100試合終了時点での平均得点 : 0.75点
1000試合終了時点での平均得点 : 0.773点
10000試合終了時点での平均得点 : 0.7391点
100000試合終了時点での平均得点 : 0.73441点
1000000試合終了時点での平均得点 : 0.730381点

つまり、この「実測」によって前項までの確率論が正しいことが証明されたわけだ。

最後に

▲INDEX
最近のコンピュータ技術の進化は素晴らしいものがある。使用したパソコンは決して性能の良いものではないが、それでも100万回にも及ぶシミュレーションの計測にかかった時間はわずか数秒にすぎない。このコンピュータ・シミュレーションの方法を使えば、もっと複雑な仮定に基づく分析も比較的簡単に行うことができる。

同様のコンピュータ・シミュレーションの方法を使用すれば「強打者はどの打順に置くのが有利か」や、「盗塁を選択するのが有利なのは成功率が何パーセント以上のときか」などといったことについても検証が可能だ。機会があればこれらの点についても記事を書いてみようと思う。
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